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業務中の熱中症死亡事件における会社への賠償請求がテーマのページです。 このテーマを詳しく扱っているWebサイトは、少なくとも2023年7月の現時点では、他に無いようです。
会社へ賠償請求〜熱中症による死亡事故
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さて、アオバさんの熱中症による死亡が、労災と認められました。 おさらいですが労災保険から遺族が受け取れるのは、
です。(それぞれの金額や申請のための必要書類についてはリンク先をご覧ください)
しかし労災保険は被害者の損失のすべてを補償してくれるわけではありません。 被災者の逸失利益はその一部しか補償の対象にならず、慰謝料にいたっては全くカバーされません。
この2つは相当に大きな金額になることも少なくなく、労災保険でカバーされないそうした損害の補償を求め、 会社への民事賠償請求を検討することになります。
STEP5
会社への賠償請求
労災にあったときに被災者や遺族が会社に賠償請求できるのは、その労災について会社に責任があるときのみです。
会社がすべきことをしていたのにそれでも労災が起きてしまった場合、会社に賠償責任はありません。
熱中症のケースでいえば、
- 熱中症を防ぐための充分な配慮を会社がしていたか
- 熱中症になった被災者に会社が正しい処置をしたか
が主な争点になるでしょう。
こうしたことができていなかったとき、会社は安全配慮義務に違反したとみなされ、賠償責任を負います。
Point
では会社が充分な配慮や正しい処置をするとは、具体的に何をすることをいうのでしょうか。
熱中症を防ぐために会社がすべきこととして、国は例えば以下を挙げています。↓
- 現場のWBGT(暑さ指数)をはかる
- 作業前に労働者にWBGT値を伝え、熱中症への注意をうながす
- 作業前に労働者の健康状態を確認する
- 遮へい物をもうけ熱源(日差しなど)をさえぎる
- 暑い現場に冷房や通風のための設備をもうける
- 涼しい休憩場所をもうける。横になれる広さを確保し、体温計や心拍数測定器を設置することが望ましい
- 水分・塩分の補給を定期的かつ容易に行えるよう飲料水を備えつける
- 労働者が定期的に水分・塩分をとっているか目を配る
- 労働者に熱中症を疑わせる症状が出ていないか目を配る
- 健康診断を定期的に行い労働者の健康状態を確認する
- 日頃から労働者に熱中症についての教育をする
これらを1つでも怠れば直ちに会社に責任ありとされるわけではありませんが、怠る項目が多いほど責任を問われやすくなります。 また、高齢者や持病のある人、業務に就いて間もない人、にはいっそうの配慮が求められるでしょう。
ここまでは予防の話です。
一方で、熱中症にかかった労働者には以下の処置を行うことを、国は会社に求めています。↓
- 労働者に熱中症を疑わせる兆候が現れたときは、速やかに作業を中断させる
- 意識がはっきりしない状態なら救急車を呼ぶ
- 意識がはっきりしている場合は涼しいところに移し、脱衣と冷却を始める
- 意識がはっきりしていても誰かに付き添わせ急な体調悪化に備える
- 自力で水が飲めない場合は、救急車を呼ぶ
- 水分・塩分をとらせても回復しないなら救急車を呼ぶ
こうした処置は労働者の生命を守ることに直結しているので、会社がこれらを1つでも怠った場合、とりわけ救急車を呼ぶタイミングを誤った場合は、会社の責任が認められる可能性が高くなります。
Point
したがって、会社は責任を免れるために、よくこのようなことを言ってきます。↓
これが全て事実なら会社に責任はないことになりそうです。 しかし会社が嘘をつくことは珍しくありません。
とりわけ最後の、
という会社の主張には要注意です。救急車を呼んだタイミングは会社の責任に直結するので、ここについて嘘をついてくる会社が少なくないと感じます。
会社は労災を出したがらないので、簡単には救急車を呼ばないことがあります。
で放置しているうちに亡くなってしまった。
いかにもありそうなことであり、実際に見てきました。
しかし会社の弁護士からは、
と言われるので、
と考えるものの、救急車を呼んだ時間は記録に残っている以上ごまかせません。そこで、
死亡事件では死人に口なしであり、相手方にはわからないはずだと考えるのでしょう。
会社の虚偽の主張を暴く
会社のうそを暴くのにもっとも有効な方法は、その場にいた同僚の証言を得ることです。
と証言してくれれば、有力な証拠となります。
しかし同僚の名前や連絡先を会社は素直に教えてくれないことが多いでしょう。 なんとかこちらでつきとめても同僚はふつう、今いる会社に不利な証言をすることを嫌がります。
そのため既に退職している元同僚に証言を依頼することが、労働事件ではよくありますが、 被災者が亡くなっている事案において元同僚をつきとめるのは難しく、また当日その場にいなかった元同僚が証言できることは限られています。
Point
証人を探すことはとりあえず置いておいて、別の方法で会社の嘘を立証することを試みます。 まず会社の言う、
は本当でしょうか?
特に屋外の建設現場においてはそうひんぱんに休憩をとっているイメージがわきません。 お昼休みや作業のきりのいいところまで働きづめだったのではないでしょうか?
現場に調査におもむくことで何かがわかるかもしれません。 現在の作業の様子を確認し・・
と判明すれば、アオバさんの亡くなった当日もおそらくそうだったのだろうと想像ができます。
Point
とはいえ、建設現場は短期間でなくなってしまうことも多く、調査したくてもできなくなっているかもしれません。 解体現場であればなおさらです。
そもそも、現場にはりついて作業を監視しているのはなかなか大変です。 探偵を雇えばお金がかかり依頼者にはね返ります。
選択肢として残しつつも、他の方法で会社の虚偽の主張を暴けないか検討します。
狙いをつけるのは会社の、
といった主張です。労災申請前の調査のところでも言いましたが、現場に出動した救急隊から話を聞くことで、会社のこうした主張の嘘が判明するかもしれません。
会社は当日、救急隊に、
と「本当の時刻」を伝えている可能性があります。 事故が起こった時、救急隊にとっさに嘘をつこうとはなかなか思わないものです。
早い時間にアオバさんの意識がもうろうとなったのであれば、その後しばらく救急車を呼ばなかった会社の対応は大いに問題となります。
Point
さらに、これも労災申請前の調査のところで述べましたが、現場到着時の被災者の状態を救急隊から聞くことで、真実の手がかりを得られることがあります。
といった証言を救急隊員がするならば、会社の言っている・・
は信用できないことになります。容体が悪化してすぐに救急車を呼んだのに、到着時にはもう血圧が0にまで下がっていたとは考えづらいからです。血圧はそんなに急速に低下しません。
ことがわかります。
Point
加えて、死亡事故であれば会社は労基署に『死傷病報告書』を出しているはずなので、労基署へ開示請求をおこないます。これは、
と、会社が今回の事故の概要について労基署に報告したものです。 もしかしたらここから事故の真実の一端が垣間見えるかもしれません。
Point
また、こちらが労基署へ労災の請求をした後の話になりますが、『調査復命書』というものを、やはり労基署から入手します。これは労基署が労災かどうかを調査したときの記録です。
Point
こうした調査によってアオバさんが早い時間にすでに意識もうろうとなり数時間放置されていたことが明らかになれば、会社の主張する、
という主張が誤りであることも見えてきます。 アオバさんは少なくとも意識がもうろうとなり放置されていた数時間は、水分をとれていなかった可能性が高いからです。
さらに、
という主張も怪しくなります。ひんぱんに休憩をとりながら、アオバさんの異常に誰も気づかず長時間が経過したとは考えにくいものがあるからです。
このようにして会社の虚偽の主張を崩していくのが弁護士の仕事です。
今回のサンプルケースでは、会社の責任は認められるでしょう。 被災者が意識もうろうとなったのに、すぐに救急車を呼ばなかった点が、特に問題です。
そして会社が死人に口なしで嘘をついたことは、慰謝料の増額という形で会社にはね返る可能性があります。
お早めの相談をお願いします
どちらかというと弁護士は、会社に賠償請求をする段階で労災事件に携わることが多いです。
そのため、事故が起きてすぐに弁護士のもとを訪れても、
と言われるかもしれません。
しかし弁護士が入るタイミングは早いほどいい、と私は考えています。 労災申請の段階から弁護士が入ることで、効果的な立証を行うことができ、認定を得られる可能性が上がります。
また、会社に賠償請求をおこなうにしても、証拠集めは早いタイミングで始めた方が有利です。
特に熱中症事件は屋外の建設現場(または解体現場)で起きることが多いため、時間がたつと現場がなくなってしまいます。
現場が残っていれば、弁護士が調査におもむくことで判明する事実もあったかもしれません。 時間の経過は、こちらのできることを奪っていきます。
加地弘が良い仕事を行えるよう、できるだけ早いタイミングで、相談にいらしてほしいのです。
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