労災が認められなかった場合の行政訴訟(国との裁判)
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STEP5
行政訴訟(国との裁判)
審査請求や再審査請求をしても、満足できる結果が得られなかった場合、 あなたは最後の手段として、裁判を起こすことができます。
このとき訴える相手は「国」となります。 「労災であることを認めない国の決定は不当だと思うのですがいかがですか?」 と裁判所に尋ねてみるのです。
国を相手にした裁判のことを、「行政訴訟」といいます。
たしかに、一般的にいって国との裁判は、現在の制度への挑戦となるわけですから、かなり勝率が低いのが現実です。
しかし労災の認定をめぐってとなると、勝率はいくらか上がります。 正確なデータが手元にないのですが、たしか20%ぐらいではなかったかと思います。
裁判の数も多く、「国と争う」という響きほど大それたことではありません。 とはいえ、難しいことに変わりはありませんが。
なぜ国がそうも裁判に負けるような事態になるのでしょうか? それは労災であるかどうかを判断するための基準が、国と裁判所とで異なるからです。
国は、労災かどうかを判断するための基準を用意しています。 この基準にしたがい、いくらか杓子定規に判断を下す傾向があります。↓
一方で裁判所は、国の基準にしばられることなく、 裁判所の基準(これまでの判例の積み重ね)によって、判断をします。↓
多くの申請を迅速に画一的に処理しなければいけない国に対し、裁判所は個々のケースの具体的な事情に立ち入って判断をすることができます。
両者の用いる基準、判断の方法が異なるため、国には労災だと認められなかったケースが、 裁判所には認められるケースが、決して珍しくはないのです。
会社は関係ないんだよね? なんか会社もやることがあるの?
会社は当事者ではありませんが、
証人として呼ばれることはあるかもしれません。
労災であると認められると、後述するように、会社にも責任があったとして民事賠償を、という展開になりやすいこともあり、 会社はふつう、国を応援するスタンスをとります。
国を訴える難しさ
労災の認定をめぐる国との裁判は、それほど大それたことではないと先ほど言いましたが、 それでも、次の2つの難点があります。↓
- 勝ち負けがはっきりついてしまうこと
- 決着までに時間がかかること
1.勝ち負けがはっきりつく
労災は原則として、認められれば保険金の全額を受け取ることができ、認められなければ1円も受け取れない性質のものです。 保険金がいくらおりるのかは制度できちんと定められており、国がてきとうに裁量で決めるわけではありません。
それはすなわち、裁判をしたときに和解による解決がありえないことを意味します。
和解とは、どちらの主張が正しいのかをあいまいにした形で決着をはかることですが、 労災の認定をめぐっては、あいまいな決着をつけるわけにはいきません。
などと国が言ってくることはありませんし、こちらから和解を働きかけてもムダです。
50%などの数字には何の根拠もないわけですから、そのようなお金を、国は払うわけにいかないのです。
国の認定をめぐっては、勝つか負けるかのどちらか1つ。
あいまいな和解はなく、判決という形で決着がつきます。
これは労働者にとって怖いことに違いありません。 なにしろ、この行政訴訟の勝率は20%ほど。 一般の行政訴訟にくらべれば高いとはいえ、80%ほどは負けています。
裁判を起こすのは、それなりに勝ち目があると踏んでいた人たちばかりです。 それでも80%ほどが負けている、というのは、やはり厳しい数字といわざるをえません。
2.決着までに時間がかかる
上で述べた「勝ち負けがはっきりつく」の裏返しなのですが、和解ができないということは、裁判が長期化することを意味します。
一般に裁判は、おそらく多くの人が思うほど時間がかかるものではないのですが、国との行政訴訟はそうではないことを知っておきましょう。
裁判に勝つよりも、裁判にならない方法を
一般の行政訴訟より勝率が高いとはいえ、やはり一旦、国から受けた決定を裁判で覆すのは厳しいものがあるといわざるを得ません。
裁判に勝つための努力よりも、裁判にさせない努力の方に力を入れるべきでしょう。 最初に国に申請をする際に充分な証拠を揃えて、労災を勝ち取ることが非常に重要です。
当事務所が行っている認定サポートなど、 専門家の助けを得ることを検討してはいかがでしょうか。
さて、ここまでは労災の認定をめぐって国を訴える裁判について見てきました。 これとは別に、会社の責任を追及するための民事裁判を起こすことができます。 次のページで見ていくことにしましょう。
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