示談交渉の開始
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STEP7
示談交渉の開始
準備が整ったら、示談交渉の開始です。
(交渉なしに最初から裁判に訴えても構わないのですが、多くの方はまず示談交渉をお望みになります。)
交渉は、まず弁護士が内容証明郵便を送るところから始まるのが一般的です。
こちらの要求を文書で相手方に伝えます。↓
【文書見本】
(※本来、内容証明は1行の文字数に決まりがあるのですが、ここでは無視しています。)
請求書
平成○年○月○日
東京都○○区○○-○○
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○ 殿
〒○○○-○○○○
東京都千代田区○○-○-○ ○○ビル○階
青葉法律事務所
電話 03-○○○○-○○○○
FAX 03-○○○○―○○○○
○○○代理人
弁 護 士 青葉 太 郎 ㊞
前略 当職は,○○○氏(以下「通知人」という。)を代理し,貴社に対し,以下のとおり請求します。
1 通知人は,平成24年1月より,同年9月15日に退職するまで,貴社の正社員として勤務してきました。
しかるに,貴社は,通知人に対し,平成24年8月分の給与396,000円及び9月分の給与290,400円の支払いをしておりません。 また,上記の間,貴社は,通知人に対し,時間外手当として月額50,000円を支給しておりますが,法所定の計算方法によれば,通知人は,貴社に対し,320,500円の時間外労働手当,深夜労働手当,休日労働手当請求権を有します。 したがいまして,通知人は,貴社に対し,1,006,900円の支払いを請求します。 つきましては,本書面到達後10日以内に,下記口座に上記金額をお支払いください。
2 万一,上記期限までにお支払いなき場合には,労働基準監督署に対して刑罰を求める申告,裁判等の法的措置を執らざるを得ませんので,その旨ご承知おきください。なお,本件については,当職が窓口となりますので,何事によらず,当職宛にご連絡ください。
草々
記
三菱東京UFJ銀行 ○○支店
普通預金口座 ○○○○○
(口座名義人) 弁護士 青葉太郎 預金
(ベンゴシ アオバタロウ アズカリキン)
事件の性質によっては、いきなり請求をぶつけるのではなく、まず話し合いを求めたほうが良いこともあります。 形式も内容証明ではなく、通常の手紙のほうがいいときもあるでしょう。
セクハラなどの外聞が悪い事件において特にそうですが、穏便に事を収めたい会社に内容証明を突きつけると、却って相手を強硬にしてしまうことがあるからです。
こっちは被害者なんですし、もっと厳しく相手をやっつけてほしいんですけど・・。
柔らかく出ているからといって、決して手加減しているわけではない点をご理解ください。
受け取った相手方は、普通は何かしらの返事をしてきます。
相手も弁護士をつけ、その弁護士名義で返信してくる場合もあるでしょう。
いずれにせよこちらが交渉の窓口となります。
あなたの元へ直接に連絡することがないよう、相手方には伝えます。
弁護士とあなたとで密に連絡を取りながら、対応を練ります。
交渉だけで事件が解決することは珍しくありません。 むしろ過去の事件では、そうしたケースが大半です。 私のところでは、事件の7、8割ほどは示談交渉で解決しています。
弁護士をつけた途端、会社の態度がガラリと変わり、形勢が有利になった。
よくあるケースです。こんなに変わるものかと驚かれることも少なくありません。
交渉には多少の時間が必要です
依頼者にしばしば見られる誤解があります。
弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士がすぐに会社に電話をかけ、その場で問題を解決してくれるものと期待している方が意外と多いのです。
実際には、事件を受任したからといって、すぐにアクションを起こせるわけではありません。 さらなるヒアリングをし、まず弁護士が事件の詳細を把握する必要がありますし、この先もしも裁判になった場合に備えての証拠集めも必要です。
弁護士がアクションを起こすときは、最初から裁判を起こすところまで見据えているものです。 またそうあるべきだと思っています。
ヒアリングもそこそこに、とりあえず内容証明でも送って様子を見てみよう、というやり方は、私はあまり好きではありません。
内容証明を送った後も、返事がくるまでにさらに時間がかかるはずです。
示談交渉はある程度時間のかかるものとご承知おきください。
むしろ郵送は最初の接触に使うだけのことが多いです。
しかし当事者同士が顔を合わせると、感情が先行し、話がこじれることもあるのではないでしょうか。
示談交渉の進み方
典型的な交渉のパターンをご紹介します。
【交渉がまとまるケース その1】
給料払うのはこっちなんだから、誰を雇うかぐらい好きに決めさせてよ。
裁判なんて物騒な話、勘弁してよ全く・・・。
それまで強硬一点張りだった会社が、弁護士がついた途端に態度を変えるのはよくあることです。 今まで会社が言っていたことは何だったのか・・と驚く人も少なくありません。
【交渉がまとまるケース その2】
だって残業代は要りませんって、向こうも合意してたのよ?
でも、残業してたっていっても、遊んでる時間もかなりあったはずよ。
それに遊んでいる時間があったのであれば、遊ばせないよう従業員を監督するのも、会社の責任だったのではありませんか?
(数日後)
どうなさいますか?
うちは残業代が出ないことになってた分、その辺の管理は緩かったんですよ。 みんなで外食に出かけたり、自由にやってましたから。
でもこっちにも負い目があるし、裁判するのも大変そうだし。
7割で示談しようかと思うんですが。
たしかに、賃金は労働の対価なのですから、働いていない分まで請求するのは、気持ちのいいものではありませんね。
会社には会社の言い分があるものです。
相手方の主張にも耳を傾けたうえで、改めて今後の対応を話し合います。
【交渉がまとまらないケース その1】
10万円で勘弁してよ。
こちらの請求額と会社の提示額とに大きな開きがある場合、交渉を続けても仕方ないことが多いでしょう。 裁判はしないでくれと頼む一方で、交渉にはろくに応じようとしない姿勢の相手方を、時折見かけます。
【交渉がまとまらないケース その2】
もちろん払うつもりでいるわ。でももう少し待ってちょうだい。
こちらの請求をのらりくらりとかわしてくる会社もあります。
付き合うだけ時間の無駄かもしれません。
【交渉がまとまらないケースその3】
(数日後)
どうぞ勝手に裁判でもやってよ。
まとまりそうだった交渉が、突然に決裂することもあります。
いいえ、必ずしも相手方の自信の表れではありません。
裁判に負けてもいないうちに譲歩するのは社内で合意が取れない、 示談に応じると会社が抱えている他の裁判に影響するので応じたくても応じられない、など会社の抱える事情は複雑です。
示談交渉その後
示談交渉がまとまった場合は、合意書を交わします。↓
【合意書見本】
合 意 書
○○を甲とし、○○株式会社を乙とし、甲と乙は、甲乙間の労働契約の終了に関する事項(以下「本件」という。)について、以下のとおり合意した。
1 甲は、乙に対し、自己都合を理由とする平成24年10月10日付けの退職届を提出し、甲と乙は、同日をもって甲乙間の労働契約が終了したことを確認する。
2 乙は、甲に対し、本件解決金として300万円の支払義務のあることを認める。
3 乙は、甲に対し、前項の金員を、平成24年10月28日限り、甲の指定する下記口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。
記
三菱東京UFJ銀行 ○○支店 普通預金口座
口座番号 ○○○○○
口座名義人 弁護士 青葉太郎 預金
(ベンゴシ アオバタロウ アズカリキン)
4 甲と乙は、本件の存在及び内容並びに本合意の存在及び内容について、みだりに第三者に口外しないことを相互に確認する。
5 甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
以上、合意の証として本書を2通作成し、甲乙それぞれが1通ずつ保有するものとする。
平成24年○月○日
東京都千代田区○町○-○-○ ○○ビル○階
甲(○○○)代理人弁護士 青葉 太郎 ㊞
東京都○○区○○町○-○-○
乙(○○株式会社)代理人弁護士 ○○ ㊞
会社が金銭支払いの合意を守らないことが心配される場合、合意書を「公正証書」という形にすることもあります。 公正証書があると、いざというときの強制執行がしやすくなるからです。
労働事件においては、相手方(会社)が金銭支払いの合意を守らないことは少ないと思いますが、 分割払いでの金銭解決をしたときは、だんだんと支払いが滞る可能性もあるので、公正証書にしておくのが安心かもしれません。
一方、交渉がまとまらなかった場合は、この後裁判に訴えるのかを改めて検討することになります。
交渉の過程で相手方の言い分がある程度わかり、また新たな事実が判明することもありますから、 それを踏まえることで、裁判を起こした場合についての、より正確な見通しを立てることができます。
見通しが暗い場合は、率直にそうお伝えします。
なお、多くの方は当初裁判を起こす気まではなく、できれば交渉で決着をつけたいと思っているものなのですが、 会社との交渉が決裂する頃にはだんだん覚悟も決まってくるようで、裁判をそれほど怖れなくなっています。
むしろ示談交渉における会社の主張に立腹し、一刻も早く裁判を、という方も少なくありません。
はい。ただし私の事務所ではいったん示談交渉をしてその後裁判に進む場合、裁判の着手金を半分にしています。
もしも裁判で200万円を請求するのであれば、追加でかかる着手金は税込みで88000円。 500万円の請求なら187000円がかかります。
※ 詳しくは料金ページをご覧下さい。
次はいよいよ裁判に訴えたときの流れを解説します。
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