証人尋問・当事者尋問
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書面のやり取りを繰り返し、そろそろ争点が整理されてきたら、次は法廷で尋問手続が行われます。 必ず行われるわけではなく裁判所が必要と認めたときのみですが、事実関係を巡るお互いの主張に隔たりがある場合は、大体行われるものと思っていいです。
これまでと違い、尋問には必ずあなた自身が出廷してください。
裁判所は平日しか開いていません。仕事がある日でも会社を休んで頂くことになります。
(日程はかなり前に決まるので、予め職場に伝える時間はあります。)
あんな場所に自分が立つなんて、考えただけで怖いです。
証拠がそろっていてこちらがリードしている事件でも、尋問の展開しだいでは負けてしまうんですか?
書証(物証)こそが最も大切であり、書証がそろっているのに尋問が原因で負けることは少ないと思います。とはいえ、尋問で裁判官の心証が変わることもあるので、 こちらに有利に事が進んでいると思われても、決して気は抜けません。
一方、セクハラや退職強要のように証拠がそろいにくい事件では、 やったやらないの水掛け論になることが多いため、尋問がかなり大きな意味を持ちます。
尋問手続は大抵、以下の順番で行われます。↓
それぞれの尋問は、こちら側の弁護士と相手方の弁護士、の双方からなされます。
例えばあなたへの尋問は、まず私から「主尋問」を行い、次に相手方の弁護士からの「反対尋問」、という順番で行われます。
以下で見ていくことにしましょう。
STEP8
主尋問(こちらからの尋問)
主尋問の目的は、事件のポイントとなる部分について、あなたの口から直接、事実を語ってもらうことにあります。↓
実際にはもう少し詳しく訊くかもしれませんが、大体このような調子で進んでいきます。
特に変わったことを言う必要はありません。
劇的な展開というものもないでしょう。
みたいなことを言うのかと思ってたんですけど、違うんですか?
民事裁判の尋問では自分の気持ちを述べるのではなく、事実を積み重ねていきます。
主尋問でこちらが狙うのは、説得力のあるストーリーを描いてみせることです。
これまで書面等で主張してきた個々の事実をつなげたときに、矛盾のない自然なストーリーが紡ぎだされることを裁判官に示す、 とでもいったらよいでしょうか。点と点をつないで線にするイメージです。
「この人の話は自然だし、証拠にも合致している。おそらく事実なのだろう。」
との心証を裁判官に与えることができれば、主尋問は成功です。
主尋問に臨むにあたって
主尋問で何を尋ねてどんな風に答えるかは、予め打ち合わせを行うのでご安心ください。
答えを覚えられるか不安を感じるかもしれませんが、なにも回答を一言一句丸暗記する必要はないのです。むしろそれはよくありません。 ポイントを外さない範囲で、事実を自分の言葉で語るようにしてください。
いいえ、事前に主尋問を打ち合わせしていることは、裁判官は皆知っています。 むしろ多くの裁判官は、事前に打ち合わせをしてくれたほうが、尋問がスムーズに進んで望ましい、と考えていると思います。
とはいえ、リハーサル通りとの印象がいかにも過ぎるようだと、やはり裁判官の心に響きにくくなるのも事実でしょう。 リハーサルを思い出しながら、ではなく、事実を思い出しながら証言している、という風であってほしいのです。
ただし、「自分の言葉で」を意識するあまり、こちらが求めていないことまで喋ってしまう場合があるので、その点は気を付けてください。
STEP9
反対尋問(相手方からの尋問)
主尋問の次は反対尋問です。相手方の弁護士からあなたへの尋問が行われます。
裁判で最も緊張する場面でしょう。
どうせネチネチと揚げ足を取ったり、こっちに恥をかかせようとしてくるんですよね?
主尋問であなたが言ったことに嘘や間違いがないか揺さぶりをかけ、あなたの供述の信用性を失わせたり、低下させることです。 本当のことを語っているなら、そう怖れることはありません。
反対尋問を、政治家が行う国会質問のイメージで捉えるのは、間違いです。
国会質問をテレビで観ていると、どうも、相手を困らすことさえできるなら質問の内容は何でもいいような印象を受けるのですが、
反対尋問はそういう性質のものではありません。
目的はあくまでも、主尋問におけるあなたの供述の信用性を失わせること、または低下させることにあるのであり、 争点と関係のないところで揚げ足を取っても仕方ありませんし、 主尋問でこちらが語っていないことについては、原則として、尋問することさえできません。
反対尋問の目指すところは、次のようなものです。↓
これによりますと、あなたがさきほど部長に呼び出されたという日時に、部長の△△は取引先を訪問していることになっています。 本当に、その日部長に呼び出されたんですか?
法廷ドラマにありそうな場面です。
相手の証言の明らかな矛盾を示すことができれば、反対尋問は最上の成果をあげたといえます。
しかしこうした大技はいつも決まるものではありません。 そもそも相手の主張が全て事実であるのなら、矛盾を突こうにも突けません。
明らかな矛盾を突くのは難しいとき、次に相手方の弁護士が狙うのは、あなたの証言の信用性を低下させることです。↓
「あなたの主張が正しいなら、あなたが○○をしたのは不自然ではないですか?」
という論法で攻めてくるのは、よくあることです。
「あなたの主張が正しいなら、あなたが○○をしなかったのは不自然ではないですか?」
という論法で攻めてくるのも、よくあることです。
ときに相手方は、できるだけあなたに尋問の意図を悟らせないようにしながら、自らに有利な事実を引き出そうとします。
その時は何のための尋問かわからなかったけれど、後から相手方の最終準備書面を読んで、その意図に気付いた。 そういう反対尋問こそが上手な尋問であると、しばしばいわれるところです。
一方で、ただこちらのあら探しをしてくるだけの尋問もあります。
そうした尋問は裁判の結論には影響しないので、冷静な対応を心がけておけば充分です。
なお反対尋問は、実はそれを行う弁護士にとっても緊張するものです。
質問を間違えると、却って自らにとって不利な、新しい事実を引き出してしまう恐れがあるからです。↓
とりわけ労働事件では、会社が責任追及される側である場合が多いですから、 あなたの口から会社にとってどんな不利な新事実が飛び出してくるか知れたものではなく、 相手の弁護士も尋問には慎重にならざるを得ないはずです。
緊張してるのは相手も同じ、と思えば、いくらか気持ちも落ち着くのはないでしょうか。
一方で懲戒解雇の有効性を争う裁判においては、こちらにもそれなりの非があるケースが多いですから、 相手方の追及は厳しいものになりがちです。↓
反対尋問に臨むにあたって
-
知らないことは知らないと言う
(想像で補わない) -
覚えていないことは覚えていないと言う
(あいまいな記憶を断言しない) -
伝え聞いた話であれば、そうであることを伝える
(自分で見聞きしたかのごとく言わない) -
しかし確かな事実であれば自信を持って答える
(追及を恐れてあいまいな回答をしない) -
事実と異なるところは、細かい点であっても否定する
(どうでもいいやと流さない) -
聞こえなかったこと、意味の不明瞭なところは聞き返す
(聞き返しても怒られない) -
相手方弁護士の挑発に乗らない
(ムキにならず冷静に) -
尋ねられたことだけを答える
(あれこれ付け加えない)
特に最後の「尋ねられたことだけを答える」は、なかなか守るのが難しく、 相手方の弁護士や裁判官から注意を受ける方も少なくありません。↓
こうしたことが起こるのは仕方のないことです。
反対尋問では、相手方にいろいろ尋ねられて嫌だったというより、 むしろ自分の言いたいことを言わせてもらえないのがストレスだった、という感想を漏らす方が多いのですが、 そういうものだと諦めることが必要です。
なお、反対尋問であなたが言いたくても言えなかったことは、その後の再主尋問でこちらから聞き出せる場合もあります。↓
また、反対尋問で相手に突かれそうなところは、先手を打ってこちらから主尋問で明らかにしておくのが得策、という場合もあります。
反対尋問で不利なところを突かれ、相手方によって不利な事実が明らかにされるより、 主尋問で隠さず話しておく方が、裁判官に与える心証の点から、そしてあなたの精神衛生の観点からも、望ましいことが多いと思われます。
こうして尋問手続が終われば、決着はもうすぐです。
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